unplugged

アンプラグド[unplugged]: 生楽器だけで演奏すること

番外編〜髪の長い女〜

よく喋る女が旅立ってから髪の長い女は〝よく喋る女〟を探した。よく喋るのに自分の事は喋らない変な女だったから、誰も女の素性は知らなかった。連絡先を聞かなくても店で会えるからいいと思ってたのに、心の中でよく喋る女は喋り続けた。


仕事を終え家路に着く。歌舞伎町は今日も何処か虚しい。

カラオケ館の自動ドアから客が出てきた。一緒に流れてきた音楽に女は心を奪われた。

 

One more time , One more chance

作詞:山崎将義    作曲:山崎将義

これ以上何を失えば 心は許されるの
どれ程の痛みならば もういちど君に会える
One more time 季節よ うつろわないで
One more time ふざけあった 時間よ

くいちがう時はいつも 僕が先に折れたね
わがままな性格が なおさら愛しくさせた
One more chance 記憶に足を取られて
One more chance 次の場所を選べない

いつでも捜しているよ どっかに君の姿を
向いのホーム 路地裏の窓
こんなとこにいるはずもないのに
願いがもしも叶うなら 今すぐ君のもとへ
できないことは もうなにもない
すべてかけて抱きしめてみせるよ

 
そうだ。札幌に帰ろう。

 
髪の長い女は長い髪の毛を一本に束ねて、さっぱりとした顔つきで新宿のローソンを後にした。

 
女が札幌の実家に身を寄せながらセイコーマートで働き始めてから一年が経とうとしていた。それでもローソンを見つけたら入店し、レジを眺めてしまう自分がいた。

こんな所にいるはずもないのに

でもどうしても普通のコンビニでは満たされない自分がいた。女は全てを振り払うかのように偶々通りすがったススキノのローソンに

〝普通のローソンで働きたいんじゃない、もう一度ただ君とローソンで、、、、働きたいんだ!!〟そう強く強く強く願いながらローソンの門をくぐった。

 

 
いた。生きていた。

 


よく喋る女がからあげ君を揚げている。

「いらっしゃいませー。」とよく喋る女が顔を上げ、こちらをみた瞬間分かったんだ。
もうこれは運命だって。

 
「これを今年あなたと飲んで時計台によじ登って逮捕されることを夢見てたのよ」

よく喋る女は札幌クラシックを飲みながら笑っている。髪の長い女も「この季節がきたね。」と笑っている。

 
こんなところにいるはずがないのに、、もう諦めよう。そう思っていた。あの日までは。2人は時間を取り戻し、夏は彩りを取り戻した。


東京の女が2人に出会うまであと、3日。

 

 

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