電車でいちゃつくカップル
電車でいちゃつく聖域の中にいるカップルに遭遇すると、釈迦のような慈悲の御心でカップルを見守る。
公の場で繰り広げられる2人だけの世界観を舞台でも見るかのように、割としっかり目に、でもバレないように拝見する。
先日観覧した舞台は、彼氏がイケメンで、彼女がイケメンの彼氏が大好きで愛情表現を止められなくて、、、というハートウォーミングストーリー。
彼氏がイケメンな故に「私の彼氏、イケメンでしょ!!!」という乙女心を止められないストーリーで、彼氏はそんな彼女を可愛いと思いながら、落ち着いてほしいと思っている。
まぁ、よくある話。よくある話よ。
中でもオタクっぽい者同士の電車のイチャつきはたまらない。一瞬にして心を容易く奪われてしまう。
さりげなく抱き合う2人。そっと腰を抱く彼。
見つめ合う2人。視線が合って「あっ」という顔をして恥じらう2人。
そんな2人に何故だろう。
副音声が聞こえてくる。
女が言う。「こんなに沢山の人がいるのに、あなたったら私の腰を抱くのね。恥ずかしいわ。」
男がいう。「だって君のことをちゃんと捕まえておかなくちゃ。君は僕のものだから。」
女は言う。「バカね。そんなことをしなくても私はあなたのものなのよ。」
男は言う。「今夜は抱くよ。」
さりげなく抱き合う2人。そっと腰を抱く彼。
見つめ合う2人。視線が合って「ふふ」と微笑む2人。
そんな2人を動物園のパンダをみるような目で観劇する女。それがわたし。
私は山手線に乗っているのであって、上野動物園にはいないはず。
でも目の前には愛とか下心とか初々しさとか色々ダダ漏れな物語が展開されている。
何故、人前で愛し合う様をみせつけてくるのか。いや、もう、何故?とか理由を探すのはやめよう。求めたっていつも答えは出てこないじゃないか。
パンダは変わらず目の前で寄り添っている。
ただ、その繰り広げられる様を自然に任せて眺めていたらいい。
きっと私は保護区域の前に座ってしまったんだ。考え的には生活保護と同じこと。保護されている。だから誰も何も咎められない。
うん、うん、触りたいね。
うん、うん、もっと側で感じたいね。
うん、うん。私は佇むばかりである。
いかんせん、私の心の琴線に触れて涙が出そうになるので、ある一定のところからそのイチャつきを釈迦のような顔で眺める。
ぽく。ぽく。ぽく。ぽく。
ちーん。
男と女は電車から降り、エスカレーターに乗る。エスカレーターの上でも、舞台パンダはロングラン上映。
男は女を前に置き、胸(お腹らへん)に顔をうずめて、ぱふぱふしたのを私は見逃さなかった。
落ち着け!落ち着くんだ!
感想は美味しくはないけど、癖になるものを食べた時の気持ちに似ている。